「どれを使うか」より「何に使うか」──生成AIの使い分けを中小企業の視点で整理する
「生成AIは一つ入れて使っている。ただ、他にもいろいろあるらしいと聞くと、うちの選び方でいいのか不安になる」。中小企業の経営者から、こうした声を聞く機会が増えました。導入するかどうかで悩む段階から、選び方で悩む段階へ、相談の中身が移ってきています。
一方で、サービスの比較記事を読んでも判断がつきにくいのが実情です。料金も機能も数か月単位で変わり、比べた翌月には前提が動いています。変わりにくいのは、サービスの側ではなく、自社の仕事の側です。
この記事では、まず公的な調査で日本の現在地を確認し、次に日本と海外で何が違っているのかを見たうえで、使い分けを考えるための3つの軸と、中小企業が踏むべき3段階の手順を整理します。
(本記事の情報は2026年8月25日時点のものです)
① 数字で見る現在地 ── 使う人は増えた。偏りも大きい
総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書によると、日本で何らかの生成AIサービスを使った経験がある人の割合は58.8%でした。2024年度調査の26.7%から大きく上昇しています【1】。調査は2026年1月から2月にかけて、日本・米国・ドイツ・中国の4か国で実施されたものです。なお2025年度調査から15歳〜19歳が対象に加わっており、20歳以上に限ると52.2%です【1】。
注目したいのは、全体の利用率よりも中身の偏りです。
| 国(2025年度調査) | 1種類以上 | テキスト生成 | 画像・動画生成 | プログラムコード生成 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 58.8% | 55.0% | 16.3% | 7.0% |
| 米国 | 75.6% | 65.4% | 41.0% | 35.4% |
| ドイツ | 75.6% | 66.0% | 47.6% | 25.0% |
| 中国 | 93.6% | 88.3% | 55.8% | 33.5% |
出典:総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」【1】
日本では、生成AIを使っている人のほとんどがテキスト生成、つまり文章のやりとりに使っています。画像・動画生成は16.3%、音声生成にいたっては6.5%です【1】。他の3か国では、テキスト以外の利用が2割から5割の水準にあります。
ここから読み取れるのは、日本では「生成AI=チャットで文章を書かせるもの」という理解が定着しているということです。使い分けを考える以前に、選択肢が一つの用途に寄っている状態だと考えられます。
② 企業では86.4%が利用。それでも「組織的な取組はない」が27%
企業側の数字も見てみます。同じ白書の企業向け調査では、日本で何らかの業務に生成AIを使っていると答えた企業の割合は86.4%でした。2024年度調査の55.2%から大幅に上昇し、米国(90.9%)、ドイツ(91.6%)、中国(98.1%)との差はかなり縮まっています【1】。
差がついているのは、使っているかどうかではなく、その先です。生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた割合は、日本が27.0%。米国は1.4%、ドイツは4.9%、中国は2.6%でした【1】。環境整備の面でも、「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」と答えた割合は日本が39.9%で、中国の71.7%と大きな開きがあります【1】。
つまり、道具はほぼ行き渡り、差がついているのは使い方を設計しているかどうかだと読み取れます。使い分けの話は、まさにこの設計にあたる部分です。
なお白書は、先進的な取組をしている企業へのヒアリング結果も紹介しています。そのうち中小企業の事例として挙げられているのが、不動産・介護などを手がけるアイニコグループです。専門企業の伴走支援を受けながら、各事業部門の課題認識を起点に1年間検討を進め、送迎ルートの最適化や問合せ対応の自動化などで、全10事業部の合計で年間2,247時間分の業務時間削減につながったと報告されています【1】。起点が「AIで何かできないか」ではなく「各部門が困っていること」だった点は、規模を問わず参考になります。
③ 使い分けを考える3つの軸
サービス名から入ると比較が終わりません。仕事の側から3つの軸で切ると、判断が単純になります。
1. 何を作るのかで分ける(出力の種類)
生成AIの得意分野は、出力するものによって分かれています。文章、表計算やデータの整理、画像・動画、音声の書き起こしや読み上げ、プログラムのコード。これらは別々の道具だと考えたほうが実態に合います。
前掲の調査が示すとおり、日本の利用はテキストに集中しています。裏を返せば、議事録の書き起こし、チラシの画像、簡単な業務ツールの作成といった領域は、まだ手つかずのまま残っていることになります。一つのサービスで全部をこなそうとするより、埋まっていない用途を探すほうが、得られるものは大きいと考えられます。
2. どこで使うのかで分ける(独立型か、組み込み型か)
生成AIには、大きく2つの使い方があります。
一つは、独立したチャット画面で使う形です(ChatGPT、Claude、Geminiなど)。下書きを作る、考えを整理する、複数の案を出させるといった用途に向きます。
もう一つは、普段使っている事務ソフトの中で使う形です。Microsoftは、Word・Excel・PowerPoint・Outlook・Teamsといった日常的に使うアプリの中でCopilotが動き、Wordでの文書作成、Excelでの数式の提案、Outlookでのメールスレッドの要約などができると説明しています【4】。Googleも同様に、Gmail、ドキュメント、スプレッドシートなどのアプリ内でGeminiの機能が使えると案内しています【5】(利用できる機能は契約プランや言語によって異なります)。
違いは、ファイルを別の画面にコピーして持ち出す必要があるかどうかです。すでに導入しているグループウェアや事務ソフトにAI機能が含まれているなら、そこから試すのが手数の少ない選択になります。
なお、各社の料金や機能は改定が頻繁なため、この記事では金額を挙げていません。契約の判断をする際は、必ず各社の公式ページで最新の内容を確認してください。特定のサービスを推奨するものではありません。
3. 入れてよい情報かで分ける(機密度)
3つめの軸は、扱う情報です。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を出しています。事業者向けの注意点として、本人の同意なく個人データを含むプロンプト(AIへの指示文)を入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合には個人情報保護法違反となる可能性があるとしたうえで、そのサービスの提供事業者が当該データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています【3】。一般の利用者に対しても、利用規約やプライバシーポリシーを確認したうえで判断するよう促しています【3】。2023年6月の資料ですが、確認すべき点そのものは現在も変わりません。
実務上は、扱う情報を3段階に分けておくと運用しやすくなります。
- 公開情報(自社サイトの文章、一般的な調べもの)……どのサービスでも可
- 社内限りの情報(社内資料、原価や取引条件を含まない業務メモ)……学習に使われない設定・契約であることを確認したうえで
- 個人情報・顧客情報(顧客名簿、従業員情報、健康情報など)……原則として入力しない。必要な場合は契約内容を個別に確認する
④ では、中小企業は何をすればいいのか
まず、一つに決めて、一つの業務で毎日使います。 白書の調査では、日本企業が生成AIを最も多く使っている業務は「議事録・メール作成補助」で、導入効果を感じると答えた割合も同じ業務が最も高く72.3%でした【1】。効果が確認しやすい領域から入るのが合理的です。この段階では比較検討をしません。一つを毎日使って、できることとできないことの感覚をつかむことが目的です。
次に、二つめは「用途違い」で足します。 同じような文章生成サービスをもう一つ契約しても、得られるものは多くありません。埋めるべきは空いている用途です。会議の書き起こしが手作業なら音声、チラシやSNSの画像を外注しているなら画像、というように、③の1つめの軸で空欄になっているところを探します。多くのサービスには無料で試せる範囲があるため、まずはその範囲で自社の業務に合うかを確かめる進め方が現実的です。
そして、一枚のルールを作ります。 入力してよい情報の線引き、出力を必ず人が確認すること、使ってよいサービスの一覧。この3点が書いてあれば十分です。総務省と経済産業省は、AIの開発・提供・利用にあたっての基本的な考え方を示す「AI事業者ガイドライン」を公表しており、2026年3月31日に第1.2版が出ています【2】。全文は分量がありますが、社内ルールを作る際の下敷きとして目を通しておく価値はあります。
| 観点 | うまくいきにくい進め方 | うまくいきやすい進め方 |
|---|---|---|
| 入口 | 「AIで何かできないか」から考える | 現場が困っている作業から考える |
| 選び方 | サービスの性能を比較してから決める | まず一つ使い、不足が分かってから足す |
| 範囲 | 最初から全社・全業務に広げる | 一つの業務に絞り、効果を確認してから広げる |
| ルール | 事故が起きてから作る | 使い始める前にA4一枚だけ作る |
| 担当 | 詳しい人に任せきりにする | 経営者が用途と線引きを決める |
うまく進んでいる会社ほど、サービスの選定に時間をかけていません。選定より先に、任せる作業を決めているのが共通点です。使い分けとは、道具を並べることではなく、仕事を分けることだと言い換えられます。
まとめ
- 日本の生成AI利用経験率は58.8%まで上昇したが、利用はテキスト生成(55.0%)に偏り、画像・動画は16.3%にとどまる【1】
- 企業の86.4%が何らかの業務で利用する一方、業務変革について「組織的な取組はない」が27.0%と、他の3か国より高い【1】
- 使い分けは「何を作るか」「どこで使うか」「どの情報を入れてよいか」の3つの軸で考えると判断しやすい
- 個人データを含む入力については、機械学習に利用されないことの確認が求められている【3】。社内ルールを作る際は、AI事業者ガイドライン(第1.2版)が参考になる【2】
比較すべきなのは、サービスの性能ではなく、自社の作業です。**どれを使うかを決める前に、何を任せるかを決める。**この順番を守るだけで、使い分けの悩みはかなり整理されます。
参考リンク
- 【1】総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月) https://www.soumu.go.jp/main_content/001082851.pdf
- 【2】総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20260331_1.pdf
- 【3】個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf
- 【4】Microsoft「Microsoft 365 Copilot とは?」(Microsoft Learn) https://learn.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/copilot/microsoft-365-copilot-overview
- 【5】Google「Google Workspace with Gemini を使ってみる - Business / Enterprise」(Google ドキュメント エディタ ヘルプ) https://support.google.com/docs/answer/13952129?hl=ja


