生成AI、中小企業はスモールスタートで

はじめに – 生成AIはビジネス現場でどう使えばいい?

生成AIの進化は著しく、最近は「生成AIをビジネスで活用する」といった言葉をあちこちで耳にします。しかし、実際に自分の会社に取り入れようとしたとき、「どこに使えば効果があるのか?」「本当に成果が出るのか?」と悩んでいる中小企業や個人事業主は少なくありません。

本記事では、生成AIで業務改善や課題解決に成功した中小企業や自治体の事例を紹介し、スモールスタートや人との協働など共通する成功のポイントを考えたいと思います。

生成AIを効果的に使うためには、小規模な業務から導入し、人とAIが協働しながら成果を検証することが大切です。また社内教育や利用ルールを整備し、自社の規模に合わせた“身の丈DX”として進めることも成功の鍵となります。こうしたポイントを念頭に、具体的な成功例を見ていきましょう。

公的資料等に見る生成AIの現状と課題

2025年白書に見る生成AIの現状と課題

令和7年(2025年)4月に発表された『中小企業白書・小規模企業白書2025』では、デジタル化とDXが中小企業の成長の鍵として位置付けられ、生成AIやRPAといった最新ツールが今後の競争力を左右すると述べられています。ただし、同白書は導入時のリスク管理の重要性も強調しています。例えば、SOMPOリスクマネジメントが白書を分析したレポートでは「生成AIなどのデジタルツールの導入を急ぐあまりセキュリティ対策を怠れば、サイバー攻撃や情報漏洩という大きなリスクに見舞われる。また、用途を誤るとサービス品質の低下や信用失墜につながる」と指摘し、外部専門家の知見を活用してリスクをモニタリングすることが重要だとされています【1】。

同じく総務省の『情報通信白書 令和7年版』では、国内の生成AI利用の現状を調査しています。アンケート調査の結果、日本で生成AIサービスを利用したことがある個人は26.7%で、米国(68.8%)や中国(81.2%)と比較すると利用者が少ないことがわかります。理由としては「自分の生活や業務に必要ない」(40.4%)、「使い方が分からない」(38.6%)、「魅力的なサービスがない」(18.3%)などが挙げられています。【2】

またインテージの調査によると、生成AIの認知度は8割を超えるものの、実際に利用している人は少数です。日常生活で生成AIを使った経験がある人は16.1%、自身の業務で導入しているビジネスパーソンは11.6%にとどまり、認知と利用の間に大きなギャップがあると報告されています。【3】

こうした統計や白書の分析からは、「生成AIをどこに使えばよいのか分からない」ことが導入の大きな壁になっていることが読み取れます。つまり、効果が不明確なままツールを導入するのではなく、自社の業務を棚卸しし整理・可視化することが重要です。業務プロセスや判断基準を明確にすれば、生成AIが支援できるポイントが見えてきます。以下では、実際の事例を見ていきましょう。

中小企業の成功事例

以下の事例は、中小企業が生成AIを使って業務改善につなげたものです。

1. 飲食店のSNS運用 – メニュー写真から毎日自動投稿

個人経営の飲食店では、毎日のSNS投稿が負担となり、本業に支障が出ていました。そこで、メニュー写真をアップロードすると、AIがキャッチコピーと本文を生成し、投稿を自動スケジュールする仕組みを導入しました。その結果、フォロワー数が1.5倍に増加し、予約数も増えたと報告されています【4】。小さな負担の解消が集客に直結した例です。

2. IT企業の議事録作成 – AIが70%の手間を省力化

プロジェクト会議の議事録作成に半日かかっていた小規模IT企業では、音声認識と生成AIを組み合わせた議事録作成ツールを導入しました。発言を即時テキスト化し、要点を抽出して整理することで、議事録作成に要する人員の工数を約70%削減し、内容の共有が迅速になったといいます【5】。

3. 複数店舗を持つ小売チェーン – ミーティング内容の共有で売上10%向上

複数店舗を抱える小売チェーンでは、店舗間で会議内容を共有するために生成AIを活用。会議の記録を即時共有し、後から修正や追記ができる仕組みを整えた結果、全店舗の売上分析や在庫調整がスムーズになり、導入から数か月で月間売上が前年同月比10%増加したと報告されています【5】。

4. 美容室チェーン – AIチャットボットで電話対応40%減

ある美容室チェーンでは、営業時間内の電話予約や問い合わせ対応に多くの時間を割かれていました。AIチャットボットを導入して、営業時間や料金、メニューといったよくある質問や予約変更・キャンセルの対応を自動化したところ、電話対応件数が約40%減少。顧客満足度と売上の向上に貢献しました【6】。

5. 地方小売店 – 需要予測AIで廃棄ロス50%削減

あるnoteの記事では、地方の小売店A社がAIによる需要予測システムを導入し、在庫管理の最適化によって廃棄ロスを50%削減し、売上が前年比15%増加したと紹介されています【7】。これは中小企業でもデータ活用と予測モデルを組み合わせることで大きな成果が得られることを示す好例です。

6. ITサービス企業B社 – チャットボットで対応時間60%短縮

同じ記事では、ITサービス企業がAIチャットボットを導入し、問い合わせ対応時間を平均60%短縮し、顧客満足度が20%向上したと報告しています【7】。質問内容に即答できる仕組みが顧客体験を改善し、業務効率の向上に直結した例です。

7. 受注予測AIで誤差率を半減した製造業

注文数の予測に生成AIを活用したケースもありました。以前は熟練担当者の経験と勘に頼っていたため発注量の誤差率が最大52%に達していましたが、AIモデルの導入により誤差率を24%まで改善しました。この精度向上により余剰在庫が大幅に減り、資金繰りも改善しました。従業員20名程度の小規模企業でも、外部ベンダーと協力することで最適なAIシステムを構築できたことが成功要因となったとのことです【8】。

自治体の取り組み – 公的サービスの可視化と効率化

地方自治体でも生成AIやAI技術を活用した業務効率化が進んでおり、その成果は中小企業の参考にもなります。

埼玉県さいたま市 – 保育所入所選考時間を1,500時間→数分に短縮

さいたま市では、認可保育所の入所選考にAIを導入し、複雑な基準を自動で判断できるようにしました。その結果、数千人分の入所希望者の選考にかかっていた時間を延べ約1,500時間からわずか数分にまで大幅に短縮しました【9】。住民サービスの質向上と職員の負担軽減を同時に実現した例です。

静岡県湖西市 – 800時間の業務削減と66時間の追加削減

静岡県湖西市では、職員の提案をきっかけに複数の生成AIツールを導入し、まずSNS投稿文の作成から活用を始めました。システム調達仕様書の作成やコード生成などにも利用範囲を広げた結果、2023年7月から2024年2月までの試算で約800時間の業務時間削減を達成【9】。

神奈川県川崎市 – コールセンターの架電効率を5.45%向上

神奈川県川崎市のコールセンターでは、未納者への電話催告業務にAIを導入。過去の折衝データを分析して滞納者とつながりやすい時間帯を特定し架電スケジュールを立てたことで、接触率が導入前より5.45%向上【9】。これはデータ分析とAIの組合わせが、人手を増やさずに業務成果を上げた好例です。

成功のポイントとまとめ

各事例を通じて浮かび上がる成功のポイントは以下の通りです。

  • スモールスタート:まずはSNS投稿作成や議事録作成、チャットボット対応など限定的な業務からAIを試し、効果を確認する。
  • 人との協働:AIの出力は必ず人がレビューし、暗黙知の補完や倫理面のチェックを行う。生成AIはあくまで補助ツールであり、人の判断力が不可欠である。
  • 教育とガバナンス:社内でユースケースやプロンプトテンプレートを共有し、利用ルールとセキュリティ対策を整備する。ノウハウ不足が導入阻害要因であることが調査からも示されている。
  • 身の丈DX:経営資源が限られていても、低コストで導入できるツールから始めることで大きな効果が得られる。

中小企業にとって生成AIは、まずは小さな業務から始め、効果を測定しながら着実に範囲を広げていくことが、DXを成功に導く近道と考えられます。


参考リンク集

【1】 SOMPOリスクマネジメント『生成AI活用とリスク』https://www.sompo-rc.co.jp/columns/view/121
【2】 令和7年版 情報通信白書 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/pdf/00zentai.pdf
【3】 インテージリサーチ「生成AIの利用実態から見えた現在地と将来の展望~生成AI利用実態調査 総集編」: https://gallery.intage.co.jp/genai2025/
【4】 まけぽよ『AI SNS投稿 自動化の活用事例』makepoyo.com
【5】 atmaLab『生成AI議事録作成ツール導入事例』atmalab.co.jpatmalab.co.jp
【6】 tocoro.media『中小企業が今始めるべきAI活用事例』tocaro.mediatocaro.media
【7】 note.com『生成AI活用事例集』note.comnote.comnote.com
【8】 note.com『AI導入でV字回復!注文・来客予測AIの成功事例』note.comnote.com
【9】 ふじこさん.com『自治体の生成AI活用事例』fujiko-san.com

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